第4回:「コミュニケーション能力が低い」んだけど・・
職場のお昼休み、セツ子は太郎からのメールを受け取った。
(珍しいわね、何か大事な話なのかしら)
中身を見ると、URLがひとつ貼ってあっただけだったのでアクセスしてみると、
「IT業界が求める人材」というインターネット記事が表示された。
セツ子(うーん……この記事にコメントでも求めているのかしら)
セツ子は「最近よく話題になる内容が書いてあるね。何か思うところがあったの?」と返信した。
太郎からの返事はなかった。
その日の夜。メールの件に触れることなく食事を終えた太郎。食後のお茶を飲みながらちょっと気まずそうに口を開く。
太「ところで昼間のメールなんだけど、やっぱりIT業界でも『コミュニケーション能力』が重要視されるの?」
セ「昼間送ってくれた記事のような意見は、確かにあるね」
太「そっか。……そうだよなぁ。やっぱり“コミュ障”じゃこの売り手市場でも就職は厳しいのか」
セ「コミュ障?」
太「コミュニケーション能力が低いってこと。俺もそうだし、友達もそういう奴ばっかりだし不安だなって」
セ「ははぁ、なるほど。ちょっと詳しく聞かせて」
---「コミュニケーション能力が低い」って?---
セ「コミュニケーション能力が低いって、どういうイメージ?」
太「初対面や気が合わないと思う人とは事務的な話しかできない、同類とつるんでばかりいる、人前で話すと声が震える」
セ「じゃあ逆の、コミュニケーション能力が高いイメージは?」
太「初対面の人とでも仲良くなれる、集団をまとめることができる、人前で堂々としている」
セ「ずいぶん具体的だね。モデルがいるの?」
太「前者は俺や友達、後者はサークルの部長だね」
セ「なるほどね。でも、太郎が言った能力は確かにあれば良いものだけど、最重要ではないよ」
太「そうなの?」
セ「営業職や企画職だと、重要度は上がるかもしれないけどね。
仕事では初対面でも、お互い話す内容があるから、仲良くなることは最重要ではない。
集団をまとめる人がいるということは、まとめてもらう側の人の方が多数ということ。
日常の仕事では、大勢の前でのプレゼンテーションよりも、少数対少数の対話の方が圧倒的に多い」
太「それじゃ、IT企業で言う『コミュニケーション能力』って?」
セ「IT企業のコミュニケーションで一番重要なのは『きく』こと。
お客様がどんなシステムを求めているのか、ちゃんと話を『聴く』。
設計書で不明なことがあったら設計者に詳しく『聞く』。
プログラミング能力が高くて、自分の能力を過信して一人でつき進む人より、
プログラミング能力は人並みでも、ちゃんと聞いて対応できる人の方が評価されることが多いよ」
太「そういうものなのかな……」
セ「そもそも太郎は話を聞いたり、聞いてもらったりする友達がいるのに『コミュ障』と言っちゃうのは良くないよ。言葉というのはね、定義してしまうと自己暗示にかかりやすいものなの。苦手だって開き直っていたら悪化する一方だよ」
太「……そうだね」
セ「あと、仕事に自信ができると、自然に自分の言葉で話せるようになるよ。もちろん努力は必要だけどね」
太「コミュニケーションが苦手でもなんとかなりそうな気はしてきたけど、面接で頭真っ白になっちゃったりしないかは不安だな」
セ「そこは場数をこなすしかないかもね。インターンシップのとき会社の人と話はできた?」
太「うん、それはなんとか」
セ「インターンシップの時は割と近い目線で話ができたと思うけど、その時と同じ感覚で話をするよう心がければ大丈夫だよ。それより太郎、今年の単位は大丈夫?」
太「……え?」
セ「来年の就職活動で内定もらったのに、単位落として留年したら水の泡だからね」
太「……あ!メディア論のレポート明後日までだった!前期の成績ギリギリだったしちゃんと出さなきゃ!」
太郎は慌てて部屋に戻っていった。
セツ子(……まだまだ不安材料は多そうね。しっかり見ておかなくちゃ)
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