第9回:面接で緊張しない方法ってあるの?
仕事を終え、帰宅したセツ子。
玄関を開けると、斜め上の方を見ながら廊下をうろうろ歩いている太郎がいた。ぶつぶつつぶやいていて、セツ子には気づいていない様子。手に持っているのはいわゆる「面接対策本」。
3分ほど待って、まったく気づく気配がないのでセツ子は声を掛けた。
セツ子(セ)「明日面接?」
太郎(太)「え、おかんいつからそこに!?」
セ「カップラーメンができるくらい前から」
太「まったく気づかなかった……」
セ「それだけ集中していたってことだね。で、明日最終面接なの?」
太「お察しの通りです……」
セ「じゃあおかんから最後のアドバイス、しときましょうか」
---面接で緊張しない方法ってあるの?---
セ「既に緊張しているね?太郎君」
太「そ、そんなこと……あるかな」
セ「表情がひきつってるし、声の出し方も硬いね」
太「どうしても、失敗したときのことを想像しちゃって。今まで人前で話して上手く行ったことないし」
セ「失敗というのはどういうこと?席に着こうとしたらつまずいて転んでひっくり返るとか?」
太「さすがにそこまでは……質問に答えるとき声が震えるとか、裏返るとか」
セ「採用の仕事をしているおかんが断言するけど、それは失敗ではないね。だって、面接を受ける人は、ほぼ全員緊張しているし、面接する側もわかっているからね」
太「そうなの!?」
セ「そりゃそうよ。オリンピックに出場する人が緊張するのと同じように、面接の場では緊張するもの。どちらも自分の『最大の見せ場』なんだからね」
太「緊張しても成果が出せる人はいいのかもしれないけど、ちょっと自信ないな」
セ「なんか勘違いしてそうだから言うけど、面接というのは『話術の上手さを競うところではない』ということはわかってる?」
太「うーん、それでも上手い方がいいんじゃないの?」
セ「おかんの会社の面接官は『マニュアルに書いてあるようなことを流暢に話す学生よりは、たどたどしくても自分の言葉で話す学生の方を採用したい』と言っていたよ。面接で必要なのは、『この人と一緒に働きたい』と思ってもらえるかどうか、だからね」
太「なるほど……」
セ「あと、適度に緊張した方がパフォーマンスが上がる※とも言われているから、緊張することは必ずしも悪いことではないよ」
※ヤーキーズ・ドットソンの法則
太「そっか。それでも緊張しすぎないようにする方法はある?」
セ「そうね。
(1)形から入る
(2)想定問答を丸暗記しない
(3)『失敗した』と思ってもちゃんと最後まで質問に答える
というところかしら」
太「いつも通り、よくわからないから解説お願いします」
セ「相変わらず丸投げなのね……
(1) 形から入る、というのは『自信があるような見た目をする』ということね。
ネクタイが曲がっていないか、とかほっぺたに米粒がついていないか、という基本的なことは事前にお手洗いでチェックするとして、胸を張って拳を握り締めるだけで自信があるような気持ちになると言われているよ。
(2) は、頑張って『想定問答集を作って丸暗記などはしない方がいい』ということ。
細かい言い回しにこだわると、間違えたとき焦って頭が真っ白になることがあるから。伝えたいことは『キーワード』にして話す文章はその場で作った方がいいの。
ただ、それだけじゃどうしても不安だと思うから、自己紹介や志望動機など一度『録音して聞いてみる』というのは手だね。自分の声がどれぐらい震えているかどうかもわかるし。
(3)は、さっき言った通り、太郎が『失敗した』と思ったとしても面接官は失敗と感じていないこともあるんだから、最後まで諦めないで、たどたどしくてもいいからちゃんと質問に答えること」
太「わかった。ベストを尽くしてみる!できる限り……だけど」
セ「頑張って。今日の夕飯カツカレーにでもする?」
太「受験じゃないんだから、そこまでしなくて大丈夫。それより内定取れたらお祝いして」
セ「はいはい」
セツ子(最後まで他力本願気味だったけど、大丈夫かな)
---一週間後---
お昼休みに「ハンバーグカレーよろしく!」という太郎のメールを受け取ったセツ子。
よくわからなかったので太郎に電話をしてみると
太「野暮なこと聞かないでよ。内定貰えたんだよ」
という返事が返ってきた。
セツ子(これで就活応援もおしまいかな)
ちょっとだけ寂しく思いつつ、今晩のお祝いについて考えるセツ子だった