第3回:企業様インタビュー後編
■音楽ソフト(※1)ショップご担当者様インタビュー<後編>
前回はインタビュー前編、オンラインの便利機能とそのご苦労などをうかがいました。
今回は後編です。
その前に、今回取材させていただいた企業様にまつわる
私のエピソードを一つご紹介します。
10数年前、希少盤と言われていた輸入盤CDの取り寄せを依頼したところ、
3年ほど経ってから「お待たせいたしました、入荷いたしました」
と電話連絡をいただきました。
期間を考えれば「入荷困難のためキャンセルになります」でも当たり前。
途中で店舗の移転などもあり、うやむやになってもおかしくないところ、
真摯に対応していただき、本当に嬉しかった覚えがあります。
お名前は伺わなかったけれど、商品を受け取りに行き、
お礼を言った時の店員さんのちょっと誇らしげな笑顔が今でも忘れられません。
この件があってから、企業様に対する私の信頼度がかなりアップしました。
それでは、インタビュー後編をどうぞ!
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■アピールポイントは?
私:
個人的に御社の魅力は、他社様にはないマニアックな輸入盤も取り扱うなど、
取り扱い商品の豊富さと、顧客対応の誠実さにあると思っています。
利用者/読者の方に向けて御社のアピールポイントを、
“オムニチャネル”の観点を踏まえてひとこと、お願いします。
Yさん:
私どもとしては、実店舗とメディア、CDやレコードなど物理的な、
いわば現物ですね。それを取り扱わないことには営業していけません。
例えば最近ではYouTubeだけで作品を発表するアーティストがいますが、
私どもでは「イケるな」と思えば、そういったアーティストのCDを作ることができます。
私:
御社は自主レーベルをお持ちですね。
■趣味性の底上げ
Yさん:
どこの企業さんもそうだと思いますが、メディアだと、
どうしても「返品リスク」というのがあって、
まあ、これには導入条件(※2)なんかがある訳ですけれども、
そういったことを考えると、どうしても店頭にあまり商品が並ばない。
お客様が「新作の発売日だから」と店頭にいらしても、
商品が置いてないなんてこともあるのが実情です。
メーカーさんも初回の生産分があまり売れないと、それ以上は作らないので、
店舗で売れたから、あとで追加オーダーしても入荷してこない場合もある。
あるいは、店舗のスタッフが新品を見たことのない商品が、
中古で入ってくることもあるんです。
そういった点で、メディアが市場に出回る量が減ってしまっている。
だからこそ、メディアを買わない人たちに、
どうやってその魅力を伝えていくか、ということですね。
私:
「魅力を伝える」ですか。
Yさん:
例えば今の若い人たちは、「レコード」というものに
ヒップ(※3)なイメージ・高級なイメージを持っている。
じゃあCDは、というと、かさばって場所をとるからとか、
CDプレイヤーがでかいので邪魔とか…。
そういった人たちに対して、メディアなり、
ちょっといいヘッドフォンだったり、オーディオだったり…。
そういったところから趣味性の底上げをしていきたいと思っています。
私どもではオーディオを扱っている部門もあるんですよ。
■音楽との出会いの場として
Yさん:
まず好きなアーティストを見つける。
そのアーティストが影響を受けたアーティストを聴いてみたり、
似たタイプのアーティストを見つけてみたり、
同じレーベルの作品を聴いてみたり、といった楽しみ方がありますよね。
それを見つけていただくための店舗、
音楽との出会いを提供していく場としての店舗というのを大事にしたい。
店頭の手書きポップなんかにも力を入れていますし、
そういうところも見ていただきたいです。
で、どうしてもお店に来られない人たちのためのネット、という感じです。
先ほど「CDが作れる」という話をしましたが、
独自のレーベルをやっていて、
さらに販売店舗を持っているケースは珍しいんですよ。
私:
確かに珍しいですよね。
Yさん:
あとは、「お客様のため、というよりも自分が欲しいからこうする」という感じも大切です。
例えば特典で付けている箱(※4)、あれも最初はメーカーさんから、
「箱はあくまでも特典だから外付けにしてくれ。
箱にCDを収納した状態では売らないでくれ」といった指示がありました。
続けていくうちにメーカーさんの理解も得られて、
今では私ども独自の特典として認知していただいていますが、
最初はそんな苦労もあったんです。
他には、レコード帯のデザインの定規を作ったこともありました。
レアな帯のデザインだったので、実物を知らない人も結構いたんですね。
で、結構評判が良かった。
だから、「これならマニアの人にも納得していただけるだろう」
という遊び心も大事にしていきたい。
もちろんコストはかかるので、金額面での折り合いをつけつつ、
知っている人には判る、知らない人でも「ほぉ」と感心していただけるような、
そういう裏情報もふまえた特典ができるとベストですね。
私:
まず「自分たちが楽しめるもの、欲しいものを作ろう」
というお考えなんですね。
Yさん:
そうですね。
■店舗スタッフとの情報共有を
Yさん:
あとは、細かい特注にも、できるだけ対応していきたいです。
先ほどの3年お待ちいただいたケース(冒頭のエピソードのこと)ですが、
海外のレーベルなんかだと、一定数以上の注文がこないと
再プレスしないとか、発送してくれないといったことがあります。
まれに数枚でも送ってくれることもあるのですが、
そうするとコストがかさんで、CD1枚の販売価格が4,000円、
なんてことになってしまう。
私:
それは高いですね…。
Yさん:
なので、時間がかかったり、難しい部分はあるのですが、
そういった希少盤ですとか、
あるいは新作がリリースされた情報は知っているけど入手方法が分からない、
というようなケースについては、
お客様のニーズを知ることができるという点で大変ありがたいので、
ぜひお気軽にお問い合せいただきたいです。
店舗のスタッフと仲良くなっていただいて、情報の共有をしていただきたいですね。
また、そういう情報を持っている方や、好きな方には、
むしろ一緒に働いてもらいたいです(笑)。
私:
なるほど(笑)。ありがとうございました。
■特典へのこだわり
私:
先ほど特典のお話も出ましたが、新作購入時の特典として、
国内外問わずアーティスト参加のインストアイベント開催(サイン会、ミニライブなど)が、
他社様に比べて頻繁だという印象を受けます。
また、アーティストロゴ入りタンブラーやトートバッグなど、
他社様には無い独自色の強いグッズが付くケースがあります。
特典に関してこだわっておられることや、ご苦労されている点などを教えてください。
Yさん:
まずイベントについてですが、これは「イベント仕切り」といって、
担当スタッフの苦労がかなり大きいですね。
ただ、ファンとアーティストとの接点を作って、
ファンの方々に喜んでいただきたい、という思いが強いです。
私どもにとってもイベントをやることで、
そのアーティストの関連作品が売れたりするメリットもありますので、
今後も続けていきたいと思っています。
■グッズづくりの模索
Yさん:
グッズについては、メーカーさんとアーティストに許諾を取る必要があります。
例えばアーティストもマーチャンダイズ(※5)を作っているので、
それと同じものは作れないんです。
私:
確かにそうですね。アーティストがロゴ入りタオル売っているのに、
特典でタオル付ける訳にはいきませんね。
Yさん:
ええ。だから、「マーチャンダイズにないもので作っても良いもの」と
「コストの面」の折り合いをつけながら…、というところですね。
また、アーティストにもこだわりを持っている人がいて、
クオリティが低いとダメ出しされることもあるんです。
「缶バッジかぁ」と思われるかもしれませんが、
結構デザインが凝っていてレアだったりすることもあるので、
そういった面も見ていただきたいですね。
実は社内でも、「特典いらないから安く売ろう」といった声もあることは事実なんです。
けれども、やはり私どもとしては、
「定価だけど、それ以上のものを」という思いで
付加価値を付けていくことを考えています。
「メーカーさんの協賛」「私どもの思い」「アーティストの要望」、
そういったものを織り交ぜつつ、いろいろと模索しながらやっています。
私:
ひとくちに特典、と言っても、いろいろなこだわりを持っていらっしゃるのですね。
詳しいお話をありがとうございました。
■Yさんの想いとは…
私:
こちらで用意させていただいた質問は以上になります。
お時間も迫っていますが、最後にYさんからひとこと、頂戴できますか?
Yさん:
そうですね…。
今、CDを聴ける人がどんどん減ってきています。
いろいろな事情があるのは解りますが、
やっぱり一度CDを買ったら、他の商品も欲しくなると思うんです。
それこそLPレコードから買っていた時代とか、
ある意味ぜいたくなのかもしれないですが、
そういう音楽をゆっくり聴く時間というのを持ってもらいたいですね。
そして、私どもとしては、ぜひそのお手伝いをさせていただきたい、と思っています。
私:
お忙しい中、貴重なお時間を割いていただき、
また大変興味深いお話をうかがうことができました。
本日は、ありがとうございました。
Yさん:
こちらこそ、ありがとうございました。
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■インタビューを終えて
Yさんは店舗スタッフや、独自レーベル所属アーティストのご担当、
通販部門のリーダーなど、様々な業務をご経験されてきたこともあってか、
具体的な実例を交えて、わかり易く丁寧に回答してくださいました。
そして言葉の端々に、ご自身の仕事へのプライドやこだわりを感じました。
Yさんが仰っていた、店舗/オンラインショップの枠を超えて、
企業全体として利用者/購入者に喜んでもらえるような
付加価値を生み出そうとされる姿勢は、
まさに“オムニチャネル”でいうところの「企業ブランドを高める」、
「あそこの店なら買おう、と顧客に思ってもらうための創意工夫」だと思います。
そういったお話を、本やネットの情報ではなく、
まさにそれを体現されている方の口から直にうかがえたことは、
非常に有意義な、また勉強となるインタビューとなりました。
ありがとうございました。
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次回は最終回。今度は「買い手」である購入者のアンケート結果をお届けします。
購入者はお店(企業)に何を求めているのか。
「売り手」と「買い手」にとってのオムニチャネルについて考察します。
―――――――――脚注―――――――――
※1 音楽ソフト
オーディオレコード(CD、レコード、カセットテープなど)と
音楽ビデオ(DVD、Blu-ray、ビデオテープなど)の総称。
※2 導入条件
メーカーが小売に商品を納品した後、
小売は売れ残った在庫をメーカーに返品できるという取引の形態。
これを「返品条件付き買い取り」と言い、返品に際して条件が付く場合がある。
※3 ヒップ
ある特定のトレンドや事柄に精通している人、熱中している人を指して使う言葉。
英語の俗語の一つ。
※4 箱
今回取材させていただいた企業様の名物特典。
過去の名盤の再発など、同一アーティストの作品が同日に複数タイトル発売される際に、
まとめて購入すると、特に人気のあるジャケット絵柄の収納ボックスが
特典として付くことがある。
枚数や形状(紙ジャケットかプラケースか、など)に合わせて作られていて、
ぴったり収納できるのがポイント。
※5 マーチャンダイズ
テレビ番組・映画等からの商品化(いわゆる版権ビジネス)のこと。
本記事内では、「アーティスト公式グッズ」の意味で使用している。