スキルUP指南 大司奈緒さん(後編)
FCEトレーニング・カンパニーの大司さまに「研修の活用法」についてお話をうかがっています。
前編はこちら
-どんな気持ちで研修に臨めばいいですか?
研修で持ち帰れるものは“ひとつ”でもいいと思います。でも、必ず“何かひとつ”は持ち帰り、実践する。研修後に「これは為(ため)になったな」「知らなかったな」と思ったことについて、その後小さなトライをひとつずつ続けていければ、まずは十分じゃないかなと思っています。
(今の自分のレベルや立場に)全然合わない研修に出ちゃった、もしくは出てみた、というときに、新しく知ったことを「自分だったらどうやって実行できるかな」と考えながら受講できる力を「置換力(ちかんりょく)」と呼んでいます。
例えば、若手の方が管理職向け研修に出ちゃった場合、今の自分には役に立たないかもしれないけど“いつかは”そういう視点を持ったらいいな、と思って受講するのもひとつの置換力です。
あるいは、自分が関わる人に対しての視点に置き換えて考えてみるとか。これってコミュニケーションの話だから上司と部下の関係じゃなくて、独身男性だったら彼女との関係で、既婚女性だったら夫との関係で使ってみようというのも「置換力」です。
感情移入して研修を受けてみる、というのがもう一つの方法です。上の役職向けの研修を受けた場合には「私の上司は、こういうことを考えていたのか」と思ってみる。逆に若手向けの研修だったら「部下のあの子は、こういうことを思っていたのかもしれないな」というふうに。その研修にマッチするだろうひとの気持ちを想像して受ける。
それを「あの人がこれを受ければいいのに」と思うと、自分の学びはなくなってしまいます。
-どこに目を向けて「受けるべき研修」を決めたらよいでしょうか?
今の自分に密接に関わっているところから受けるのがよいと思います。
「7つの習慣(R)」には「影響の輪」と「関心の輪」という言葉が出てきます。
・「影響の輪」:自分が行動して影響を与えられる範囲
・「関心の輪」:関心はあるけれども、自分では影響を与えられないもの(例として天気)
「影響の輪」も「関心の輪」もその範囲はひとによって違います。自分が影響を及ぼせる範囲に対してきちんと集中していくことが必要です。「関心の輪」に目を向けちゃうと「上司がこうだったらいいのに」ということになってしまいます。
-「影響の輪」を広げる方法はありますか?
10段階評価で、自分のレベルが5だとすると、1~5の仕事をしていたほうが楽です。でも会社はそれを望みません。5を超えるチャレンジゾーンに1歩踏み出すことで「影響の輪」を広げる可能性が出てきます。
英単語をあまり知らないひとが、英検1級対策の研修に参加するのは無謀です。でも英検3級対策の研修に出てみる、それは小さな1歩です。その1歩は間違ってもいいんです。研修の場では誰にも迷惑をかけません。間違って1級の研修に出ちゃった場合「ガーン」となります。その時間で身につくことはあまりないかもしれないけれど、今の自分が次に進むためには違うステップが必要だ、ということがわかります。
自分ではその1歩がどうしてもわからない、という場合は、周りのひとにきいてみたらいいと思います。上司にだったら「今の私にどれが役に立つと思いますか?」とか、周りの同僚、仲のよい友人にだったら「どれがいいと思う?」とか。周りを巻き込んじゃったほうがいい選択ができるかもしれませんね。
あとは、ひとりで学ぼうとしないほうがよいと思うんです。やろうと思っても恥ずかしいな、というときは、他の人を巻き込んでみるのもいいですね。研修を受講してきた同僚に「どういうことを学んだの?」と聞いたり、そこで役に立ちそうな内容があれば、
「それいいね。ちょっとやってみなよ。わたしもここだけやってみる」と人に勧めたりしながら、自分にも実践しやすい環境を作ることができます。
-今のビジネスマンが強化したほうがいい「ベーシックなスキル」って何だと思いますか?
「傾聴力」が大事だと思います。
私たちは相手が言ったことを「なんで?」と(反抗的な気持ちで)受け取ってしまうことがあります。
ちゃんと聴く力を発揮して「なぜ今、この仕事を急がれているんですか?」「どうして、そういう風に思ったの?」ときいてみると、自分が想像していたのとは違う答えや、知らなかったことが答えとして返ってくることがほとんどです。それを理解できると「だからこういう風に言ったんだな」と見方が変わりますし、それによって行動も変わります。
そう言われても、やっぱり「自分は人の話を聴いている」「理解している」と思ってしまうものだと思うんです。私もそうでした。
自分の体験をお話します。先日ある研修で、お互いについてフィードバックをする機会があり「大司さんは聴いてくれない」と言われて、結構ショックを受けました。
言われたからにはちゃんと受けとめようと思い、「自分で思っている以上に、“聴く”に徹する」ということをしてみたんです。会食も兼ねたミーティングの場があったのですが、出来る限りずっと黙っていました(笑)。
そうしたらびっくりしたんです。その場にいる全員が、誰も人の話を聞いていないんです。会話をしているようで、それぞれが自分の話をしている。自分が話すことを考えている。
私はその中でも元々発言が多い方だったので「私はこれを蹴散らして、人の話を聴かずにしゃべってたんだ……」と、恥ずかしいと思うとともに「聴くのって、みんな大事だとわかっているのに、こんなに難しいんだなあ」と改めて実感しましたね。
でも、「ちゃんと聴く」と、これまでわかっていなかったことが「理解できる」ようにもなると感じました。相手を「理解する」ために「ちゃんと聴く」でも「聴き切る」ということは、実際にはなかなかできません。私もまだまだです。
人間は「人のことを知りたい」と思うより「自分をわかってほしい」という生き物なんですよね。
-学びの実践を続けるエネルギーを保ち続けるにはどうすれはいいでしょうか?
仲間を増やすことが大事だと思います。当社の「7つの習慣(R)」研修だと「チャレンジメール」という仕組みがあります。チャレンジすることを決めて、ひとり週1回発信してもらいます。発信されたメールにお互い返信(ストローク)もします。
そういう仲間がいなかったら、自分でちょっと言葉にしてみるといいですね。当社には「日報」の文化がありますが、個人なら日記でもいいです。
自分からひとに話してみるのもオススメです。「ちょっと褒めて欲しんだけど」と前置きして(笑)「この前こんなこと、ちょっと試してみたんだけど……」と、自分の実践を話してみてください。
-ラストメッセージをお願いします
チャレンジは、ずっとやろうと思うとしんどくなっちゃうので「1週間だけやってみよう」「明日はやってみよう」と期限・範囲を決めると取り組みやすくなると思います。すこしずつ自分の中に「自信」が貯まっていきます。
学んだ分だけすぐに正比例で成長することを、受講者本人も上司も期待すると思いますが、それは実は結構難しいことです。学校の勉強もそうだったと思うんです。
最初はなかなか成果が出ないように見えても、続けていればあるときグッと角度が上がる瞬間が必ずあります。
それは研修の場に立ち会っている私たちも目にしていることです。
だからその時を信じて、ちょっとずつのトライを続けて欲しいと思います。
FCEトレーニングカンパニー
「7つの習慣(R)」をはじめとする企業向け研修を提供。企業の人材育成、人材活用、採用支援、研修・セミナー、コンサルティングの専門集団。
※「7つの習慣(R)」はフランクリン・コヴィー・ジャパン社の登録商標です。
※FCEトレーニング・カンパニー「7つの習慣(R)イノベーション」研修プログラムは
フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社(FCJ社)とのパートナーシップ契約に基づき、
FCJ社の監修のもと、研修および振り返りテキストを通してビジネスシーンでの実践を目的に開発しています。