江戸のスポーツと東京オリンピック(20190706-20190825)
東京オリンピック開催まであと1年。両国にある「東京都江戸東京博物館」でTOKYO2020公認プログラム:特別展『江戸のスポーツと東京オリンピック』が開催されています。
会期は2019年7月6日から8月25日まで。
“江戸”と冠された博物館のオリンピック展示は他とはひと味違い、『江戸の「スポーツ」事情』から始まります。その後『近代スポーツと東京』『オリンピックへの道』『1964年東京オリンピック・パラリンピック』そして TOKYO2020 へとストーリーが組み立てられています。
第○章とタイトルがつけられた、それぞれのコーナーで「注目の展示」や「トピック」を取り上げ、この特別展を紹介します。
●第1章 江戸のスポーツ事情
江戸時代にはもちろんスポーツという言葉はなく、戦乱の時代に必要だった武術が「武士の嗜み」に形を変え、人々は技を競っていました。
次第に、その様子を将軍が上覧したり、観衆の前で美しく見せる工夫を施したりするようになります。この時すでに、現在のスポーツに通じる “観客も一緒に盛りあがる” イベント性が宿っていたように思えます。
「流鏑馬絵巻」(部分)
狩野與信(春貞)/画
江戸時代後期
東京都江戸東京博物館蔵
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平安時代に宮中で行われた蹴鞠(けまり)は、江戸の町民にも広がり、衣装に工夫を凝らしたりしていたそうで、これは「ユニフォーム」と言ってもよいかもしれませんね。
博物館の隣には「両国国技館」がありますが、相撲は江戸時代でも人気のスポーツ。この時代も取組の勝ち負けはありましたが、全体を通算した優勝というしくみはまだなかったそうです。
「小野川 谷風 引分の図」
勝川春英/画
1791年(寛政3)頃
東京都江戸東京博物館蔵
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●第2章 近代スポーツと東京
明治時代のスポーツは、運動会に代表される娯楽要素の強いものと、軍学校で行われる鍛錬要素の強いものがありました。
『戸外遊戯法』 野球やテニスなどさまざまなスポーツを日本語で紹介した本。
坪井玄道、田中盛業/編 1885年(明治18)
東京都江戸東京博物館蔵
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スポーツも西洋文化の伝来とともに日本に伝わり、野球やテニスが流行。相撲にも近代文明化の影響はおよび、力士に「裸で通りを歩かない」「必ず草履を履いて歩く」なんてお達しがあったのだとか。
●第3章 オリンピックへの道
1940年、のちに「幻の東京オリンピック」と呼ばれるようになった出来事があったのをご存知でしょうか?
海外スポーツの普及に努めた坪井玄道(つぼい げんどう)や、日本マラソンの父:金栗四三(かなくり しそう)の才能を見出した嘉納治五郎(かのう じごろう)の働きかけにより、日本は1912年ストックホルムでオリンピックに初参加を果たします。
その後、テニス競技では日本人選手で初のメダリストが生まれ、陸上でも日本人選手が活躍し、ついに1940年のオリンピック自国開催が決まりました。
しかし、日中戦争の開戦と国際関係の悪化から、政府はオリンピック返上を宣言したのです。スポーツ自体も実施が難しくなるものが増えていきます。
Tokyo-1940と書かれ五輪のシンボルマークがついた「記念の手旗」を展示会場で見ることができます。
第12回オリンピック東京大会記念手旗
1936年(昭和11)頃
東京都江戸東京博物館蔵
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ヘルシンキが繰り上げ候補地となりましたが、第二次世界大戦勃発により中止。続く1944年にロンドンで行なわれる予定だった大会も戦争により中止。「平和の祭典」であるオリンピックの歴史が戦争で中断したという事実を忘れてはいけません。
● 第4章 1964年東京オリンピック・パラリンピック
このコーナーの目玉は何と言っても4枚の「公式ポスター」でしょう。
展示会内スナップ許可コーナーにて撮影
※無断転載を禁じます
亀倉雄策(かめくら ゆうさく) デザインによる公式ポスターは、人々に鮮烈な印象を残しました。「第1号 日の丸」は、上から半分をも占めるスペースに日の丸をイメージさせる朱赤の丸が占め、その下に金色の五輪マーク(シンボル)と“TOKYO1964”の文字。
世界一シンプルでありながら印象的なポスターを目の前にして「国旗が日の丸でよかった!」と思わされる1枚です。
「第2号 陸上競技」は、スタートを切った瞬間のランナーたちを横並びに撮った写真。 五輪ポスターでグラビア(写真)を使ったのはこれが初めてです。
「第3号 水泳」は、バタフライをする日本人水泳選手、「第4号 聖火ランナー」は荒川土手を走るランナーの写真で、会期が印刷された初の五輪ポスターです。
これらは、文字が読めなくても伝わるツールとして生み出されたピクトグラムとともに、世界に対して「日本のデザイン力」を知らしめた作品群。
『動だけど静』、じっと見つめているとそんな言葉が浮かびました。日本的な静けさのうちに秘められた情熱を感じるポスターを展示会場でぜひご覧ください。
“初” といえば、「パラリンピック」という名称が初めて使用されたのも、1964年の東京大会からでした。パラリンピックは、1948年にイギリスのストークマン・デビル病院内で行われ、入院患者のリハビリ目的としたスポーツ大会がその原点とされています。
『愛と希望の祭典 パラリンピック東京大会』 パラリンピック大会の記録
1965年(昭和40)
東京都江戸東京博物館蔵
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●第5章 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて
こちらのコーナーには、招致時のグッズが展示されています。「お・も・て・な・し」スピーチが印象的だった招致メンバーたちが着ていたオフィシャルスーツなども見ることができます。
TOKYO2020までいよいよあと1年になりました。準備は十分ですか?
お気に入りのスポーツ観戦、選手の応援だけでなく、オリンピック・パラリンピックが「平和の祭典」であることを思い出し、その歴史に触れることで、スポーツを通じた人々の交流の素晴らしさをより深く感じることができると思います。
『江戸のスポーツと東京オリンピック』、見逃せません。
【開催概要】
会期 2019年7月6日(土)~8月25日(日)
会場 東京都江戸東京博物館 1階特別展示室
開館時間 午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで、8月2日・9日・16日・23日(各金曜日)は午後9時まで開館)
休館日 月曜日(ただし8月12日は開館)
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館、読売新聞社、公益財団法人日本オリンピック委員会、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員